隣り合わせのふたつ

カチャリ、金属音が鳴り響く。相手が剣を鞘から抜き取ったのを皮切りに、血の宴は始まった。視認出来る限り数十の兵士と、おそらく暗躍しているのであろう、数多の気配が五人を包む。

刃の滑る音が鳴り終わる頃にはアグリアによって既に数人が地に伏せっていたけれど、この在り様、どうやら五人がかりでも少々骨の折れそうな陣形を組まれている。ましてや此処は沼野なのだ。いくら霊勢が落ち着いているこの時期とは言え、戦いにくい場所であることに変わりは無いし、誘い込まれた段階で彼らに幾らか分が悪い。

「遅せぇんだよッ!そんなんであたし達を殺ろうって?あァ?四象刃ナメてんじゃねぇよ!」

握り締めたナイフで次々と標的の喉笛を掻き切り、アグリアは狂ったように戦場を踊る。この場所では火系の術技の使い勝手が些か悪い。沼地独特の湿気が火力を制限してしまうし、かと言って、場所を移せばそれはそれで山火事を引き起こしてしまうからだ。それゆえ暗殺術に長けた彼女は小さな刃を振るう、振るう。躊躇いも無く血の雨を降らせる彼女は狂気に満ちて、傍らのプレザが呆れて笑う。

「……また始まったわ。一人で突っ込んで行ったりして、どうなっても知らないわよ?」

振り返りもせずに背後から襲い掛かる剣士を水責めにして、プレザは鋭い視線を遅れて向けた。これほど敵が広範囲に渡ってしまっては、手当たり次第に応対するほか無いのだろう。この状況下で一箇所をまとめて攻撃してみたところで、他の八方から殺しに掛かられるのが関の山だ。

かと言って、この人数では個々の能力で全てを捌き切れるか疑問が残る。個人がどれほどの強さを誇ったところで、地形の不利というのはなかなか馬鹿に出来ないものなのだ。

「……この戦局、どう見る、ウィンガル?」
「撤退は不可能と判断致しますが、この地形を有効化する手立てはおそらく無いでしょう。力押しで乗り切るより他に手は無いかと」
「……ああ、そのようだ」

向かい来る兵士を一閃して、ガイアスは軽く瞳を閉じた。それは計画された茶番への呆れから来るものかもしれなかったし、これから切り伏せる多くの命への諦めでもあるのだろう。そう判断したウィンガルもまた剣を抜き、自身の背後より襲い来る命を奪う。

「少しばかり場を離れるが、構わんかの!」
「好きにするがいい。お前に任せよう」
「了解じゃ。無事でいてくだされよ、陛下!」

遠方から響くジャオの声に一言だけ返答して、ガイアスはなおも二つ、三つと命を散らす。アグリアのように身軽な娘や、プレザのように隠密を生業とする者ならばまだ良いが、此処からではおそらく大きく動けはしないだろう。最初の段階で巧妙に身動きの取れない位置に誘導されてしまったせいで、誰かを助けに行くことも、助けてやることも上手く出来そうにない。

「沼地を利用して狙撃の成功率を上げる……か。随分と手の掛かる真似をするものだな」

丘陵になった遠方にはジャオが、木々と沼地に隔てられた先にはプレザが、森の影には暗殺者を駆逐するべくアグリアが、それぞれ互いに手の届かない場所へと隔絶されている。唯一共に残されたガイアスとウィンガルの元には非情なほどの数の人間が飛び掛かり、そのたびに一人、また二人と王の首を獲らんとする影が散ってゆく。

「暗殺部隊は発見次第殲滅致します。それまではどうかご無事で、陛下!」
「案ずるな。こちらに問題は無い。隠れている者の始末はお前とアグリアに任せる」
「はい!」

降り続く矢の雨をかわしながらプレザは言って、彼女もまた森の闇へと分け入って行く。本来彼女が後衛を離れることは無いに等しいが、どちらにせよ回復術の類は一切届かない距離なのだ。今はこうするより他に無いのだろう。

「ふむ、思ったより数が多いな。持ち堪えられるか、ウィンガル?」
『当然だ。誰に向かって物を言っている?』
「ふ……勇ましい物言いは相変わらずか」

納得したように口元だけで笑って、ガイアスは好戦的に剣を振るう片翼を見やった。

ガイアスがこうしてウィンガルと共に刃を振るうのは随分と久しぶりのことだった。このところは四象刃それぞれとの別行動が多く、特にウィンガルは宰相としての一面しか見せていないことが多かったため、彼が白髪に染まるそのさまを目にする機会がそれほど多くはなかったから。

「臣下の口利きとは思えんな。……まあ、いい。お前のお陰でその言葉も随分と解せるようになった」

一見物腰穏やかな日頃のそれこそがある種の偽りであることを知っているだけに、ガイアスはウィンガルの変わり様にも別段驚きはしなかった。要は増霊極を埋め込む以前、まだ出逢った頃の憎悪に満ちたウィンガルの姿だ。そこから比べて些か復讐の念が抜け落ちてはいるが、雰囲気としてはあの頃とさして変わりない。

「プレザとアグリアが帰還するまでこの場を死守する。先走るなよ、ウィンガル」
『言われなくとも』

流れ矢を払い、迫り来る敵を一閃しては累々と屍を積み上げる。時折背中合わせになっては互いの殺気に少しの昂ぶりを覚えて、ガイアスはぎらついた瞳でにやりと笑った。

敵より味方に気が抜けない。不可思議なこの状況こそ、忘れ掛けていた数年前までの日常だ。いつ殺されるやも知れぬ、いつ謀られるやも知れぬ。そんな張り詰めた緊張感の中にあってこそ、覇道の一歩は成し遂げられた。この片翼の途方も無い憎悪があったからこそ、ガイアスは道を違うことなく此処まで歩んで来られたのだろう。たとえばそれをウィンガルが意図した、していないにかかわらず。

「こんな世界の一国の王に収まったところで何が出来る?お前が居るとこっちは迷惑なんだ!大人しく死ねよ!」
「……断る。俺は民を導かねばならんのでな」
「民だと?何も知らないくせに、奇麗事ぬかしやがって!この世界はな……!」
「言葉より先に刃を向けるような人間に聞く耳など持たぬ。消え失せるがいい」

襲い掛かる敵に一抱えの大剣を一振り、また一振り。返り血すらも浴びぬその立ち振る舞いは美しく、どこか他者に物言わせぬ威厳をも感じさせる。

ふと視線をやれば、深紅の瞳が影にも色褪せぬ金色と交差する。物怖じせず笑んだウィンガルに、歓喜とも戸惑いとも付かぬ表情でガイアスは問うた。

「……何人だ?」
『今斬った奴で二十だ。ハッ、どいつも大した力量じゃねぇな』
「いくら個の力がこちらに及ばざるとも、少なく見積もったところでこの数倍は潜んでいるだろう。何度も言うが、見誤るなよ」
『くどい!』

忠告を一蹴したウィンガルに、ガイアスは諦め加減に息づいた。一度抑制が利かなくなると、ウィンガルは必要以上の力で敵に向かっていこうとする傾向がある。増霊極の影響ゆえにある程度は許容するほかないが、この好戦的な衝動だって、基本的な部分はウィンガル自身の性格だ。

一度狙った獲物は徹底的に追い詰めなければ気が済まない。それは知略を武器に生き抜いてきた人間の性のようなものなのだろう。終局に整った形を求めすぎるあまり、ウィンガルは生ある人間に止めを刺すことに、ともすればガイアスよりも厭うことをしないのだから。


***


「キリねぇよ、こんなんじゃ……!」

アグリアは荒い息を吐いて、未だ残る敵集団を忌々しげに見やる。もう数十は殺しただろうか。一向に途切れてくれない兵士を見る限り、おそらくかなり大規模な組織なのだろう。

「……本気で私達を潰しに来ているようね。力のある人間がそんなに邪魔なのかしら」
「つーか、あたしらがやんねーとヤベェんじゃねぇの?あっち。どうすんだよ?」
「それは、……陛下のことだから、ご無事だとは思うけど……」

上手いこと、切迫したこの状況を打開する術が見つからない。二人は息を潜めてその場に留まり、おぼつかない思考を巡らせる。

まだ辛うじて力尽きてはいないが、このままでは数の暴力に屈するのも時間の問題だろう。視認できる限り、ジャオは遠方の個集団にかかりきりといったふうだし、ガイアスとウィンガルに至ってはこの場所からでは姿を確認することさえままならない。

共闘さえ出来れば雑魚の数十や数百、どうということはないのに。連携が取れないとこうも苦戦を強いられるのだから、文句を言いつつ仲間というものの有難みを思い知らされる。

「アグリア、一度退きましょう」
「あァ?あたしに逃げろって?冗談じゃ――」
「……アグリア」
「……チッ、わかったよ。けど、あっちに戻るのも一苦労なんじゃねーの?」
「陛下の周りも兵士で溢れかえってるはずだもの、傍まで寄るのは難しいでしょうね。……でも、せめて身を隠せそうなところまでは離れないと……」

プレザが言いつつ、二人は走る。背後には敵、前方にも敵。八方塞がりのこの状況を、下方で戦う二人が打開してくれることを願って。


***


相手方の手勢が減ったのか、僅かだけ緩やかになった敵襲に、二人は束の間だけ息をつく。相変わらず放たれる矢の雨に、ガイアスは怪訝そうな表情で虚空を見やった。

「……失敗したか」

先ほどより幾分勢いが止んではいるが、殲滅されたというには程遠い。さすがに動きを封じられがちなこの沼野では、四象刃の「針」と「爪」とは言えど全てを処理するのには無理があったというところだろう。

敵陣は熟練の兵ばかりというわけではないが、いかんせん数が多い。こちらとてそれなりに体力を削られてもいる。なるべく早期に決着しなければ、やがては全員の命を保証することが難しくなってしまう事態にもなりかねない。

「プレザが此処を離れてもうしばらくになる。こちらから打って出るより他に無いやもしれんな」

どことなく判断に迷ったふうをして、ガイアスはそうとだけ一言口にする。不慣れな場所で下手に動き回ることは、兵法上あまり歓迎された行為ではない。だがこの状況、人数を鑑みる限り悠長なことを言ってはいられないのだろう。アグリアとプレザがどこかに息を潜めているのなら、合流が最優先であることに違いは無いのだ。

「噂通りの豪傑らしいなァ、ア・ジュールの王様よォ。けどな、所詮は多勢にたった二人がかりだ。アンタも、そっちのニイちゃんも、とっとと諦めちまえよ!」
「断る、と言っている。貴様たちの非道にむざむざ殺されるわけには行かぬ」
「ハッ、そうかよ!なら、こいつはどうだ?死にたがりのアンタらにゃぴったりかもな!」

言って、飛び掛かって来た兵士の一人がふと、黒光りする小箱を取り出す。至近距離。照準が合わせられる。男が笑う。光の充填にガイアスが気付いたところで、まばゆい光が辺りの闇を貫いた。――そこから、一瞬の間。

「貴様、それは……」

訝しげにガイアスは問うて、足元に転がった小箱を鋭く見つめた。ややあって灰と化したそれは、役目を終えたせいなのか、砂ひとつ残さず姿を消して行く。

「黒匣だよ。……っと、アンタら未開の土地の人間にゃ黒匣は理解出来ないんだったか?」
『エネルギー体の発射装置だと?だが増霊極とも違う。何だあれは!?』
「ふむ、増霊極とも違う……か。また妙なものを持ち出してくるものだな」

ウィンガルの言葉にこと冷静に耳を傾けながら、ガイアスは今しがた黒匣の消えて行ったその場所を見やる。どんなに卑劣な手口を使ってでも、必ず標的を抹殺する。その組織の名に、ガイアスにはひとつだけ心当たりがあった。

過去、ア・ジュールとも何度か手を組んでは手を切り、双方に都合の良いよう付かず離れずを繰り返してきた組織。とうとうこちらも用済みになったということか。嘲りを含めて少し笑んでから、ガイアスは深紅の瞳を男に向ける。

「貴様ら、アルクノアか」
「ハッ、よく分かってんじゃねぇか」
「……なるほど。それだけ聞ければ十分だ」

言ったと同時に勢い良く剣を振りかざせば、刃のぶつかり合う音が響く。そこからほんの一瞬。押し負けて相手方の剣が弾き飛ばされたのと同じタイミングで、ガイアスは踏み込んで一閃する。――ああ、やはり。どれだけ吼えたところで、まるで手ごたえの無い。

「……後ろで物見の見物とは、余裕だな、ウィンガル」
『お前の獲物に手は出さないといつも言っているだろう』
「ふ……そうだったな」

確かにそんな約束をしたこともあった。さも可笑しそうにそう言って、ガイアスは少し後方に立つウィンガルに注意を向ける。――途端、再び強い殺気。

『前だ、来るぞ、ガイアス!』

そうウィンガルが叫んだ遥か前方には、新たに幾人かの兵士が列を成していた。だが、どうにも様子がおかしい。訝しく思って、暗がりにぼやけるそれらを注視する。抱えているのはみな一様の、黒。

「……黒匣か!」

そう察するが早いか、前方から光の束が二人を目掛けて放たれる。ひとつ、ふたつ、みっつ。間一髪かわして行けば、そのたび小箱が灰となって消えて行く。近付くこともままならないまま、ともかく逃げる、逃げる。光が当たった木々は無残にも倒れ、その殺傷力の高さをありありと見せ付けている。

もう少し、あと数個。放たれ続ける光に気を取られ、それからつかの間。最後の黒匣が尽きるのとほぼ同じ時。喧騒に紛れて、低くくぐもった悲鳴が落ちた。

「っ……!」
「ウィンガル?」

ふいにバランスを崩したウィンガルに注意を向けつつ、ガイアスは黒匣を失い戸惑う兵士を片付ける。近づけど、ただ惑うばかり。剣を構えることもなく、ひたすらに驚いたような表情で死に行くさまは、敵なれどひどく不愉快な光景だった。

おそらくこれが最後の手段なのだろう。差し詰め特攻部隊とでも言ったところだ。初めから捨て駒にする腹積もりの一団ならば、なんと愚かで無慈悲な。

「……は、……っ」

そうしてガイアスが敵を一閃する傍ら、沼野に膝をついて、ウィンガルは苦しげに吐息する。どうにか持ち堪えようとした増霊極の効果もほんの僅かで薄れ、露見するのは誰しもに見慣れられた黒髪のいつもの姿。荒い吐息に肩を震わせながら、自らの腕を掠めたものの正体を視線で追って、ウィンガルは自身の詰めの甘さに内心自嘲する。

「毒矢か。……やはり仇になるのはあれのようだな」
「ガイ、ア、……ス……」
「黒匣を退けたことで動揺しているのだろう。敵の動きが鈍っている」

辛うじて傍らに立つガイアスの名を呼べば、ウィンガルは痛烈なほどの眩暈を覚える。ぐらつく視界と嘔吐感、それらに必死に抵抗するのが精一杯だ。随分強い毒を塗られていたのだろう。こうも即効性があるのでは、まともに動くことさえ出来はしない。

回復を一手に引き受けるプレザが居なければ、この場での処置は見込めないだろう。おそらく症状ばかりが濃く出る割に、死ぬのには時間が掛かる性質の悪い毒だ。苦しむだけ苦しんで死ぬ。ある意味、戦の理に適った典型的なタイプと言っていい。

――俺が死ねば、この男は呆れるだろうか。ふとそんなことを思い浮かべてしまうほど、今にも遠のきそうな意識が憎らしい。

「……無様だな、リィン」

じわりと滲む毒に息を殺すウィンガルを見やって、感情の読めぬ無表情のままでガイアスは言った。ようやく止みきった矢の雨に、おそらくプレザとアグリアが動き出したのだろうことをぼんやりと悟る。

だから先走るなと、見誤るなと念を押したのだ。思って、なおもガイアスは強い視線だけを返すウィンガルを見やる。――だから忠告したと言うのだ。自信過剰になればなるほど、ウィンガルは自分を省みようとしなくなってしまうと分かっていたから。

「……っ」

ガイアスの言葉に返答する余力もなく、ウィンガルはただ鋭い金色を、強く、強く彼へと向けた。四象刃であり続ける限り、その戦いの全ては自己責任だ、と。いつだったかガイアスが口にした、ささやかな誓いが脳裏を過ぎる。

そう、力無き物は堕ちて行く定めなのだ。今この時に、ようやく全てが解放されるというのなら。この男に全てを捧げ、奪われ、また魅せられて。その愚かささえ抱いたまま、ここで朽ちて行けると言うのなら。それもまた――。

「リィン」

手放しかけた意識に、名を呼ぶ通りの良い低音が響く。身動きひとつ取れない身体。衰弱しきった瞳を合わせれば、くず折れぬように強く腕を引かれた。まともに驚くことも出来ずにウィンガルが疑問を抱けば、ひどく、優しげに唇が触れ合う。――後に、少し鈍く残る苦味。

「アー、スト……?」

思わず素のまま慣れた名前を呼び返せば、全身から毒気が抜けていくのが感じられた。急速に現実に引き戻される感覚がして、浮遊感の中、視界にガイアスの姿が映り込む。

「強引に意識を繋がせてもらった。……立てるな」
「っ、何故、……助けた」
「……俺はお前を守ってやる気はないのでな」

端的にたった一言そう言って、ガイアスは自身に伝播した毒を振り払うように、手にした解毒薬を一口含んだ。以前、念の為にとウィンガル自らが渡したそれを、まさかまだ持っていようとは。

――俺を切り捨てるのではなかったのか、お前は。そう言いたげなウィンガルをガイアスが至って何でもないふうにちらりと見やれば、彼は複雑そうな表情のままで身体を起こす。

「じき、残党が攻めて来るだろう。お前の知恵を俺に貸せ」
「アースト……?」
「戦えぬのなら策で戦え。……お前は俺の隣に立っていろ。……指示を、リィン」

そうして力強く放たれる、主の言葉に引き込まれる自分に気付いて、ウィンガルはこの日何度目かの自嘲を浮かべる。――ああ、必要とされることを求めている。何度消えたいと願い、それを許されずに生かされるたび、結局この場所に縛られることを、望む。

「死に掛けたところで、助けられる保証は無いぞ」
「構わん。お前に守られる算段など初めからしてはいない」

そうならないよう、お前の策を信用している。言い切って、ガイアスは不敵な笑みを湛える。

「何を……」
「不服か?」
「……いや、そうではないが……」

ガイアスの笑みに失意と昂揚を取り混ぜたような気分になって、ウィンガルは手持ち無沙汰に視線を逸らした。――ああ、駄目だ。また囚われる。思ったが最後、目の前の深紅にどうせ心ごと奪われる。

渦巻く負の感情をいつだって上回るほどに、この男に惹かれている。――そんなことは解っている。今更なのだ。見切られようと、救われようと、今更何をどうしたところで、この男から逃れようの無いことなんて。

「……陛下の仰せのままに」

せめぎ合う葛藤に諦めを覚えて、ウィンガルは傍らに落ちたままの、自身の剣を鞘に収める。迫り来る最後の一団を前に、ウィンガルはガイアスの隣に立った。